どういった患者さんが難症例なの?
2011-09-06
顎堤も悪くないし、そんなに難しそうじゃないな、と思って作ってみたらうまくいかない、ということはないでしょうか。実際作ってみないとわからないことも多いのですが、作ってみて失敗だと後の祭りですので、できれば製作する前にわかりたいものです。一般に難症例といわれるものには以下のようなものがあると思います。
①フラビーガム
フラビーガムが小臼歯部ぐらいまでくるとかなり難しいです。この義歯を成功させるためにはかなりのテクニックが必要です。前歯部に限局している場合、このサイトにのっているフラビーガムのページにのっているようなことに配慮すればそれほど問題ないかと思います。
②シングルデンチャー
上顎、下顎が全部床義歯で対合は全て天然歯の場合、排列位置が限定されたり咬合力の負担が大きくなります。義歯の咬合力負担が頬側にシフトするため義歯破折等の危険性も高く金属床義歯にせざるを得ない場合もあります。
③コンビネーションシンドローム
上顎全部床義歯、下顎両側遊離端義歯(多くは前歯のみ残存)の場合をコンビネーションシンドロームと呼びます。天然歯を喪失していく過程で最も多いのがこのパターンでしょう。基本的に前歯部に咬合接触を付与すると義歯が動揺しやすく、フラビーガムの原因となるため前歯部の接触を与えないように義歯を作りますが、下顎の前歯部が天然歯なのでどうしてもそこでの咬合接触を求めて顎位が不安定になったり、前方に出てきたりする場合があります。これをうまく押さえ込むのは容易ではありません。
こういった場合、前歯部での咬合接触を求めて顎位が前方に偏位してくる場合があります。前方に偏位してくると臼歯部の咬合接触が甘くなるため前歯がこれ以上強く接触しないよう、臼歯はもっと噛むように調整するとなると結構大変です。
少し古いですが、コンビネーションシンドロームに関するGE Carlssonらのレビューがあります。
The Combination syndrome: a literature review.
S Palmqvist, GE Carlsson, B wall - The Journal of prosthetic dentistry, 2003
④すれ違い咬合
すれ違い咬合も難症例の一つです。人工歯と天然歯が咬合することになるためどうしても天然歯が優位になってしまい、義歯の動揺や痛みが治まらなくなる場合があります。上下顎どちらか全部床義歯にする、というのが最もベーシックな解決方法です。抜歯するか、オーバーデンチャーにする方法がよく選択されます。保険外とすると、インプラントでセントリックを作るか、テレスコープなどが選択されます。
義歯が常に回転、動揺するような力が加わります。解決策としてExtが推奨される場合もあります。あと1,2本の喪失ですれ違い咬合になりそうな欠損形態の場合、今現在セントリックを担っている歯の保存をしっかり行い、プラスして義歯かインプラントでセントリックを確保することが重要です。
⑤粘膜が薄い
粘膜は義歯にとっての座布団です。座布団がふかふかしているかどうかで痛みの出やすさが違います。座布団がふかふかしていれば咬合力にもしっかり耐えられます。顎堤粘膜をみて赤みが強い場合、粘膜は十分厚いと考えられます。粘膜の毛細血管の色がでているためです。逆に白っぽい場合粘膜は薄いと考えられます。これは粘膜が薄いため直下の骨の色を透過しているためです。
⑥顎位が不安定
今使用している義歯の咬合面が真っ平らだったりした場合、顎位が不安定になってしまっている可能性があります。つまり一点で咬合することができなくなっているわけです。新しい義歯を作る場合、一点で咬合する顎位を付与しなければなりませんので、患者さんが噛める位置(ゾーン)からどこか一点をチョイスする必要があります。それが本当に正しい位置なのかはセットするまではなかなかわかりません。さらに義歯セット後には咬合に一定の甘さを与え、顎位の不安定さに対応することが必要かもしれません。
義歯をいれて噛ませてみましょう。患者さん本人は普通に噛んでいるつもりでも左右にどんどんずれていったり、一定の位置で噛めない場合顎位が不安定といえるでしょう。
このように咬耗が著明な場合、顎位が不安定でどこで噛んで良いのか、また噛んでいるのか本人がわからなくなっているケースも多くあります。レジン歯は咬耗しやすいため、硬質レジン歯を使用した方がよかったかもしれません。新しく製作する場合、咬合採得したり、試適する度に顎位が違って非常に困る患者さんもいます。そういった場合とりあえずある程度の所で作ってしまい、それを治療用義歯とすることも考慮しなければいけません。
⑦咬合力が強すぎる
一般的に咬合力は義歯になると弱くなります。特に全部床義歯になるとかなり弱くなることが知られています。顎堤粘膜は歯根膜に比べると咬合力の負担能力が低いため、咬合力が弱くなることによってうまく調整できているとも考えられます。しかし、たまに咬合力があまり弱くならない場合があります。こういった場合、咬合力に粘膜が負けてしまいいつまでたっても痛みが治りません。自分ではうまく作ったつもりでも痛みがひかないのでかなり難しいですし、旧義歯を診査してなかなかわかるものでもないので非常にやっかいです。作って短期間で硬質レジン歯がかなり咬耗するような場合、こういったことが考えられます。軟質裏装材などの使用等を考慮する必要があるかもしれません。
①から④までは欠損形態や解剖学的なものなので、すぐみればわかると思います。しかし⑤から⑦はなかなか判断するのは難しいです。結局1個作ってみてだめだったので、その義歯を治療用義歯として使用してもう1個ということになる場合が多くなると思います。
顎堤吸収が高度なものはどうなの?
もちろん顎堤状態が悪い、下顎が高度に吸収している症例などは難症例ということになります。高度に吸収している場合、顎堤頂といわれる部分が無くなります。顎堤頂が陥没して、吸収されない外斜線と顎舌骨筋線の方が高くなります。こういった症例では顎堤による把持が見込めないため、義歯が簡単に動きます。
5年ぐらい前に織田が神奈川で訪問歯科をやっていたときの患者さんです。顎堤が一部平坦になっています。しかし、全体としてはまだ顎堤はあるほうですのでこのような顎堤状態は中等度の吸収ということになります。これ以上えぐれてくると作業用模型が大変な形態になってきます。残念ながらそういった顎堤の患者さんは増加しています。