個人トレーの重要性 岩手医科大学 歯科補綴学講座 有床義歯補綴学分野

個人トレーって使った方がいいの?

2011-02-10

 個人トレー、大学にいたときの義歯の先生は使ってたけど・・・、特に必要じゃないよね。だって筋形成しないしと思っていませんか?筋形成しない場合でも個人トレーは使用する意味があります。
 個人トレーの目的として代表的なものは

①筋形成をして義歯の外形を決定する
②印象圧のコントロールをする

の2つがあります。義歯の印象には圧力をかけたい部位、かけたくない部位が存在します。例えば、フラビーガムや口蓋隆起、下顎隆起などが圧力をかけたくない部位でしょう。あらかじめ研究用模型にワックスでリリーフして個人トレーを製作すれば、そこに圧力をかけにくい印象をとることができます。さらに遁路を設ければさらに圧力を逃がす効果があります。
 印象圧のコントロールとして最も重要なのが部分床義歯の被圧変位量のコントロールです。これは一般的な部分床義歯の教科書には載っていることです。歯には圧力をかけず、粘膜に圧力をかけるとよい、というもので一度は聞いたことがあると思います。

個人トレー

印象採得を既製トレーで行った場合、粘膜とトレーの間に距離がかなりあるため印象圧をコントロールすることができません。この場合圧力がかかりません。むしろ天然歯とトレーの間の距離の方が小さいので、天然歯に圧力がかかってしまいます。



個人トレー2

個人トレーで印象採得した場合、歯には印象圧をかけず、粘膜に印象圧をかけることができます。単にぴったりあっている個人トレーと粘膜に印象材を盛れば圧力がかかるということです。上顎後縁は後堤法でさらに圧力をかけます。



個人トレー3

既製トレーで印象してそのまま義歯を製作した場合、咬合力が加わると歯は殆ど沈下しませんが粘膜はかなりの量沈下します。これではうまく歯根膜粘膜支持しているとはいえません。



個人トレー4

個人トレーで圧力をうまくコントロールできれば歯と粘膜の沈下量が近似してうまく歯根膜粘膜支持させることができるようになります。



筋形成しなかったら個人トレー使用って意味ない?

 上記の説明の通り、適合した個人トレーを使用するだけで圧力をかけたりスペースをつけて圧力をかけないようにしたりできるわけなので、例え筋形成を行わなかったとしても個人トレーを使用する意味はあります。ただし、個人トレーには流れの良い印象材を用いることが多いため、個人トレーの床縁が短い場合、印象が小さくとれてしまう可能性があります。そういった場合、できるだけ製作したい義歯床縁のサイズに近い個人トレーを使用しましょう。印象材も別にシリコン印象材でなければだめということもありません。寒天アルジでもいいと思います(当講座では全てシリコン印象材ですが、私たちも外勤では個人トレーでアルジネート印象材などで印象したりしています)。
 既製トレーでアルジネートを用いて二重印象を行うとよいという意見があります。1回目でだいたいの印象をとり2回目でウオッシュするという方法です。これは確かに押すことはできるかもしれませんが、とうぜんぴったりしている所もあればぴったりしていないところもできていますので圧力のコントロールとしては不十分といえるでしょう。1回目でとった印象を火であぶったりしたらアルジが変形してどこに圧力をかけているのかわかりません。熟練した先生ならうまくいくかもしれませんが、若い先生には意味を正しく理解し個人トレーを使用していただきたいと思います。 

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