ご飯を食べるとむせます。何か問題ですか?
2011-09-06
「むせ」とは、食物や水分が気道に入らないように防ぐ為の体の防御策の一つです。気道と食道は前後に隣り合わせにあり、誤って食物や水分が気管に入る(誤嚥)と、窒息や肺炎の原因となる場合もあることから、気管の入り口に食物や水分が入りそうになると、体の自然な防御反応で、むせや咳をして、気管に入らないようにするのです。むせや咳は、誤嚥に対する正常な体の生理反応であり、健康な体の人には確実に認められる反応です。すなわち、むせる=誤嚥ということではありません。
気道と食道は隣り合わせに存在しています。普段は食べ物が咽頭から食道に送り込まれるときには喉頭蓋というふたが気道を閉鎖し、喉頭への進入を防止しています。しかし、ふたがしまるタイミングがずれたりすると食べ物や水が誤って喉頭に入ることが起こるわけです。若い正常な人でもご飯を食べているときにむせたりするのは喉頭に食物や水が入ってしまったからです。
では何が問題なのでしょうか?高齢の方では、特に大きな疾患の既往がなくてもこの反応が低下しています。加齢に伴って全身の筋肉は衰え、様々な運動の反射も鈍くなって行く様に、飲み込みに関わる筋肉や反射も低下していきます。自分では咳き込んで気道に入った食物を出したつもりでも、実は出ていない、つまり誤嚥の危険性があるのです。
私たちは、毎回の食事において、食物を飲み込んだ直後にむせ(咳)の反応を認めた場合には、喉頭侵入や誤嚥との関連を疑います。「むせ」の原因には以下の項目が考えられます。
①食べる・飲み込む能力と食事のミスマッチ
②飲み込みの反射が弱い、反射のタイミングが悪い
③食べる・飲み込むに必要な筋肉の動きと力の不良
④咬む力の不足
⑤舌の運動と力の不良
⑥ほか
気管に入った場合でもむせや咳がない誤嚥(不顕性誤嚥)も存在することから、むせだけではなく、そのほかの症状とあわせて判断することが重要です。
摂食・嚥下障害の患者さんに検査でご飯を食べてもらった時の写真です。のどのかなり奥の方を撮影した写真です。食べ物がこんなにのどの奥に残っており、今にも喉頭(気道)へ進入していきそうです。残っているのは本人も分かっているのですが、うまく飲み込めません。こういう状態が長く続けば気道の方へ食べ物がそのうち入ってしまうでしょう。若い人ならむせて出せますが、年齢が高い場合むせずにどんどん入ってしまい肺炎を引き起こすことがよくあります。
こういった状態は、決して脳血管障害や重症な神経系疾患の人だけに起こるものではなく、筋力の衰えている高齢な方などにも認められます。